2019/01/25
こんにちは。前回までは『バリスタの必須スキル』と題して具体的なスキルについて触れてきましたが、最終回の今回はこれからの時代のバリスタに求められるものをコーヒー業界のトレンドと合わせてお話しさせて頂きます。
>>前回記事「バリスタ必須スキルその③『エスプレッソのテイスティング編』」はこちら
みなさんはバリスタの役割やバリスタに求められる要素はなんだと思いますか?ほとんどの方が『美味しいコーヒーをスピーディーに、安定して抽出すること』と答えるのではないでしょうか?私も以前であればそう答えていましたし、それが優秀なバリスタのイメージだった時代もありました。
しかし今ではバリスタに求められる要素が少しずつ変わってきていると感じています。
確かに『美味しいコーヒーをスピーディーに、安定して抽出すること』はもちろん大切ですが、現在のコーヒー業界の品質向上の進化はめざましく、以前より美味しいコーヒーを提供するためのハードルは年々下がってきています。例えば生産者の品質向上への取り組みにより、高品質な原料へのアクセスも比較的容易になってきていますし、ロースターの焙煎技術も向上してきています。そして実際にバリスタが抽出する際にもスケール付きのエスプレッソマシンの登場やより精度の高いグラインダーの普及、そしてタンパーやディストリビューションツールなどのバリスタツールの進化など、数え上げればきりがないくらい数年前とは比べ物にならないほど様々な角度から品質向上へのアプローチがなされています。
さらにドリップコーヒーの抽出やラテアートなど自動で行ってくれるマシンも開発されている時代ですから、高品質な原料を適切に焙煎し、あとは機械に抽出を任せた方がよりスピーディーかつ安定して抽出することができるといった現実が近い将来到来すると思います。
そうなってくるとバリスタは必要なくなるのでしょうか?私はそうは思っておりません。むしろ人間であるバリスタにしか出来ないことがあり、それが今後のバリスタの役割やバリスタに求められる要素となっていくのだと思います。具体的には下記のようなスキルが挙げられると思います。
まずカスタマーサービス(接客サービス)やホスピタリティについてです。例えば行きつけのコーヒーショップがある人の場合、当然そこで提供される商品が魅力的であることももちろんだと思いますが、実際はそのお店で受けられるサービスや、バリスタの接客やホスピタリティが心地良いからといった理由も多いのではないでしょうか?逆に商品やバリスタの技術は素晴らしいにも関わらず、あまり良い接客が受けられなかった時やサービスレベルが著しく低いと感じた場合、そのお店にもう一度行きたいという気持ちが残念ながら失われてしまうのも事実だと思います。
もちろんカスタマーサービスやホスピタリティについては業態や価格によってお客様が期待するレベルも当然異なるかと思います。またコーヒー1杯は比較的安価な商品なので、あまり高いレベルのサービスは必要ないケースもあると思います。しかし今後美味しいコーヒーを提供できることが当たり前になってきた時、お客様はより心地の良いサービスを受けられるお店を選ぶようになるのではないでしょうか。そしてカスタマーサービスやホスピタリティは機械では決して提供できない、人間であるバリスタでしか提供できないものなのです。
同じ外食業でもレストランやバー、ホテルなど一流のサービスを提供している他の業種では一般的にはコーヒーショップよりも高い水準のサービスが求められることが多いと思いますので、私たちも参考にし積極的にお手本にしたいですね。
そしてバリスタは生産者やロースターをはじめコーヒー産業で働くすべての人たちの代表として働いているという意識も重要です。なぜなら日々消費者であるお客様と接しているのがバリスタだけだからです。バリスタにしかできないサービスを提供することでより多くのコーヒーファンを増やしていくことが重要な役割だと思います。
次にプレゼンテーションスキルです。具体的には店舗でお客様にコーヒーの情報やフレーバーなどをご説明するスキルのことです。これも特に最近バリスタのスキルとして重要性を増してきているのを実感しています。
高品質なコーヒーが普及するにつれ、コーヒーのトレーサビリティも明確になってきています。そして一般のお客様でも少しずつコーヒーに詳しい方が増えてきています。 ワインの世界もそうであったように、普及する以前は一般の消費者はあまりワインの産地や品種、土壌や作り手の情報について知らなかった時代がありました。ところが今ではどうでしょう?ワインが普及するにつれ、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどといったぶどうの品種をほとんどの人が一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
残念ながらコーヒーの世界では一般消費者の中で、コーヒーに詳しい人はまだまだ少ないと思います。ブルボンやティピカなどコーヒーの品種を知っている一般消費者はほとんどいないでしょう。
しかしワインの世界でもそうであったように、今後高品質なスペシャルティコーヒーが市民権を得てくるにつれて、一般のお客様も様々な情報を欲するようになってくると思います。例えば、自分が飲むコーヒーの農園や生産者についての情報、さらに生産処理方法、標高、品種など、そして最も重要な味覚やフレーバーについての情報です。
バリスタの世界大会でも数年前からバリスタが審査員にフレーバーをあらかじめ説明し、そのフレーバーの整合性や品質を評価されるという項目が追加されていますし、最近では実店舗でもお客様にフレーバーをご説明する機会は増えてきているのではないでしょうか。
今後はコーヒーショップでお客様にバリスタがコーヒーの情報やフレーバーについてプレゼンテーションをする機会が益々増えると思います。まるでワインのソムリエのようにお客様に提供する一杯のコーヒーについてのストーリーをプレゼンテーションし、またどういったフレーバーを感じて頂けるのかをご説明するのもバリスタの仕事の重要な部分になってきています。
ソムリエと違う部分といえば、バリスタは自身が選定し仕入れたコーヒーを、自ら抽出し、そしてお客様にプレゼンテーションとともに提供することができるということです。そう考えればバリスタの仕事の範囲はとても広範になってきていて、とてもやりがいのある仕事だと言えるのではないでしょうか。
今回はこれからのバリスタに求められる要素やバリスタの役割についてお話ししましたがいかがでしたでしょうか。
コーヒーの世界は本当にトレンドの移り変わりが激しく、それと同時に品質の向上も目覚ましいものがあります。業界内でのバリスタの役割も以前にも増して重要になり、また仕事の範囲も広がってきています。
常にアンテナを張り積極的に情報を取得したり、また勉強を続けていくことでこれからの時代に求められるバリスタ像に近づけるのではないかと思います。
ディレクター / バリスタトレーナー 松原 大地
【経歴】
2011年よりバリスタの世界大会であるWorld Barista Championship (ワールド バリスタ チャンピオンシップ)にて審査員を務める。 2013年メルボルン大会ではアジア人初の決勝テクニカルジャッジに、 2015年シアトル大会では日本人初の決勝センサリージャッジに選出される。 その他国内外の数々のバリスタ競技会の審査員として活動をしながらアンリミテッド株式会社を設立。また現在バリスタギルド・オブ・ジャパンの代表としてSCA(Specialty Coffee Association)の国際的な資格プログラムである『COFFEE SKILLS PROGRAM』の運営も行なっている。
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