2018/11/28
こんにちは。
東京観光専門学校カフェサービス学科の山本です。
今回はいくつかの材料の持つ特性や製菓の理論についてお話させていただきます。
>>前回記事「パティシエに求められるサービスの重要性について」はこちらから
皆さんのお手元に届くケーキはそれぞれ作り手の想いと同時に技術が込められます。パティシエの技術とは必ずしも手先の器用さが全てではなく、何故、美味しくなるかを理解し、どうしたら美味しくできるかを考え、実行することが大切です。
美味しければいい。食べてしまえば一緒。という考えは持ちません。材料の特性を知り、加工することによる状態の変化を理論として持つことで表現に繋がっています。
理論に沿った菓子作りをすると、出来上がりをイメージすることができ、失敗を未然に防ぐことができます。失敗してしまった場合も原因を特定し、いくつかの手がかりを得ることができます。菓子作りのベースを作り、そこから発展させていくことが新しいケーキを生み出す際に必要なのです。
菓子の基本材料といえば、まず砂糖です。科学的にはショ糖と言い、ブドウ糖と果糖が組み合わさった二糖類という分類をされています。自然界では植物だけが持っていて、人間が生きる上で必要な栄養素です。
製菓に使うのは主にグラニュー糖や上白糖といった精製度の高い砂糖ですが、他にもきび砂糖やてんさい糖など、製法の異る砂糖も多数あります。これらが本当に色々な働きをします。砂糖の活躍が無ければ、パティシエの仕事は絶対に成り立ちません。
一番大きな役割としては「親水性」だと思います。砂糖は他の食材が持つ水分を吸収し、離さないという特徴があります。
これにより、防腐効果や老化防止をもたらします。繁殖のために水分が不可欠な細菌やカビが来る前に水分を抱えてしまい、その水分を持ったまま他の食材とくっつくことで、しっとり感のあるやわらかさを維持してくれます。また、メレンゲやシャンティー(ホイップクリーム)、ギモーブ(マシュマロ)などは砂糖が周りの水分を抱え込むことで安定した細かな泡の状態を保ってくれます。
そして、温度帯で色やカタチを変えるのも砂糖ならではの特徴です。100℃を超えると無色透明の液体となり、140℃程になると色が着き始め、冷めるとガラス状になります。170℃ほどで香ばしいカラメルとなります。この働きがクリームやソースをなめらかに仕上げ、艶やかな飴、美味しそうに香ばしく焼き菓子を焼き上げるのです。
砂糖は単純に甘さをもたらすだけでなく、製菓において他の食材の良さを引き出し、プロデュースしてくれる現場監督のような存在です。例えば、プリンやカスタードのなめらかな口当たりは砂糖の活躍によって生まれます。卵は加熱すると固まる性質を持っていますが、砂糖と合わさるとその本来の焼き固まる温度が上がり、あの魅力的な状態が生まれるわけです。
卵の性質でもこの加熱によって固まる「熱凝固」は特徴的です。卵白は58℃から固まり始め、70℃~80℃で完全に固まります。それに対し、卵黄は65℃から固まり始め、70℃で完全に固まります。この温度差を利用し、先ほどお話しさせていただいたプリンやカスタードが生まれます。
卵は、殻:白身:黄身が1:6:3という割合でサイズこそあるものの、まるで統一されたかのように均一で、卵黄を守るべく卵白と殻で包まれた、身近にありながらとても神秘的な食材です。製菓においても卵白と卵黄のそれぞれが大活躍し、コクと風味をもたらす優れものです。
卵白にはカラにヒビが入ってしまった場合に補修するため、空気に触れると固くなるタンパク質が含まれています。またタンパク質の働きで、水分をなるべくコンパクトにしようとするため、徐々に取り込んだ空気をキメ細かな泡にしてキープしてくれるわけです。この空気変性と気泡性という性質がクリーミーなメレンゲやふわふわのスポンジを生み出します。
一方で卵黄にはレシチンという、水と油を繋ぎ合わせてくれる成分が含まれています。バターとメレンゲを艶やかなバタークリームに仕上げたり、滑らかな口どけのアイスクリームは、この乳化作用によって生まれます。様々な油脂を使う菓子作りには欠かせない役割を担ってくれているのです。
バターをはじめ生クリームやチーズ、ヨーグルトなど、牛乳から作られる乳製品は、様々な菓子に使われます。クリーミーで艶やかにケーキを演出するだけでなく、パイを何層にも折り込めるのは自在にカタチを変えられるバターの伸展性という特性です。冷えたカチカチの状態から、グニグニと柔らかく、熱を加えれば液状にもなります。そのそれぞれの状態で加工後の仕上がりが変わるのです。
そして、クッキーのサクサクと心地よい食感は、生地の中で小麦が水分と繋がってできるグルテンという組織をバターが崩すことにより生まれます。
多くの方が「ケーキ」と言われて、まず思い浮かべるのはショートケーキではないでしょうか。パティシエの技術で最も知られている「絞り」や「ナッペ」を駆使して仕上げられるショートケーキは、生クリームとスポンジとフルーツを味わうケーキの王道ですが、作る上では生クリームの状態をよく理解していないととても難しいケーキです。
生クリームがホイップ状になるのは、成分中に含まれる脂肪球がぶつかり合って網目のように繋がり、空気を取り込みながら形成するからです。最終的には大きな塊になります。これがバターです。ホイップの状態をしっかりと感じながら、絞る、塗る、混ぜ込むといった用途に使い分ける必要があるのです。
このように、身近な製菓材料にも様々な特性があり、それを有効に活用して組み立てられています。考え始めると難しく感じるかもしれないですが、たくさんの失敗から「何故」を導き、理論を知ることで技術は広がっていきます。菓子作りが上手な人は上手な分だけ失敗し、何故かを考えた人なのだと思います。
不謹慎かと思われるかも知れませんが、私は学生が失敗した時こそ、嬉しく思います。何故ならそこで考えるきっかけが生まれ、成功した学生よりも多くの工程を振り返り理由を探せるからです。それは必ず成長に繋がります。
ケーキは嘘をつきません。考えた分だけ答えを教えてくれます。失敗しないための失敗は必要なことだと思いますし、もっと美味しくするためのヒントも教えてくれるのです。
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学校法人 東京観光専門学校
カフェサービス学科 学科長 山本 佳成
【経歴】
桜美林大学国際学部卒業。フランス企業パティスリー部門にてキャリアをスタート。都内パティスリー勤務を経て、レコールバンタンにて製菓アシスタント講師、八王子うかい亭パティシエを勤め、現在は学校法人東京観光学校のカフェサービス学科にて、製菓、カフェフード、デザートの実習をはじめ、メニュー開発や店舗経営などの教育を行う。
【住所】
〒160-0843 東京都新宿区市谷田町3-21
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