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2018/12/26

チョコレートの”神秘”~カカオの歴史からテンパリングの技術まで~/コラム連載Vol4(山本 佳成氏)

チョコレートの”神秘”~カカオの歴史からテンパリングまで~/コラム連載Vol4(山本 佳成氏)

>>前回記事「ケーキ作りで知っておくべき「材料の特性」と「製菓の理論」」はこちら

多くの人に愛されるチョコレートの“魅力”

チョコレートを用いたスイーツ。ホワイトチョコで作られた”LOVE

 チョコレートは製菓材料でありながら、それだけでも菓子として成り立ち、古くから人々を魅了し、今なお進化を続けています。

 私がチョコレートに特別な思いを持ったきっかけは、冬山で遭難された方がアーモンドチョコレートと水だけで一週間を過ごし、救助されたというニュースを、母が「すごい、すごい!良かった…。」とテレビの前で拍手しているのを見た時です。小学生ながらに、いつもおやつとして食べているチョコレートが人命を救ったのかと強く印象付けられたのを覚えています。

 チョコレートは50gに250kcalの効率的な非常食となるばかりか、カカオに含まれるテオブロミンという成分には、気持ちを落ち着かせるリラックス効果があり、精神的にも効果をもたらしてくれるのです。メキシコでは古代より、カカオが神々の食べ物として崇められていたことには納得です。

 今でこそ、手軽にいつでも誰しもが手にできるチョコレートですが、実はその製造過程は非常に複雑で、多くの人の苦労により皆さんの手に渡ります。

 チョコレートの原料であるカカオは高温多湿の熱帯の土地で年間を通じて27度以上であることと、安定した降水量の限定された地域でしか育ちません。赤道を挟み南北20度のカカオベルトと呼ばれる地域で栽培が行われています。収穫したカカオの実からカカオ豆を取り出し、発酵、乾燥させ、出荷されます。

 アフリカではコートジボワール、東南アジアではインドネシア、南米ではブラジルが主な生産国で、世界ではおよそ40ヶ国が生産し輸出しています。チョコレートの味を左右するのはカカオの品種と原産地とその配合であると言われています。

 このカカオ豆をローストし粉砕すると「カカオニブ」、それをすり潰してペースト状にししたものが「カカオリカー」と呼ばれます。ここから道は分かれて行きます。

  「カカオリカー」は搾油することで「カカオバター」と「カカオパウダー」に分かれますが、冷めて固まると「カカオマス」になります。これらを配合し、テンパリングという工程を経てビターチョコレート、ミルクチョコレートとして商品になっています。

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カカオの歴史

カカオ豆とチョコレート

 カカオと人々の歴史は長く、メキシコでは紀元前1900年頃には栽培されていたことがわかっています。当時は貨幣として流通し、メソアメリカでは権力の象徴として扱われていました。王族は主に嗜好品や薬品、強壮剤として飲用したとされています。1500年頃にコロンブスがスペインに持ち帰ったとされていますが、しばらくは謎の植物として扱われていたそうです。

 1519年にフェルナンドコルテス将軍が、アステカ人が磨り潰したカカオに香辛料を合わせて作る「ショコラトル」という飲み物を飲む文化を発見してから、ヨーロッパで研究が始まり、歴史が大きく動き出すのでした。

 私の推測でしかありませんが、当時のヨーロッパは錬金術が盛んであったため、錬金術師はもちろん、科学者や医者など、様々な研究者の手により新たに発見された素材の研究は大いに盛り上がったことでしょう。

 そして砂糖やバニラを加えた飲み物としてスペインで誕生し、貴族間の婚姻などによりヨーロッパに広がりました。チョコレートは上流階級の間で流行しましたが、その後も研究は続けられ、徐々に多くの人々の手に渡って行きます。中でも、チョコレート4大発明といわれる発明はまさに奇跡的な出来事です。

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チョコレートの4大発明

チョコレートバーの写真

①カカオバターの発明‐クンラート・バンホーテン

 1828年、オランダのクンラート・バンホーテンが飲み難いと感じていたチョコレートをもう少し軽くて飲み易くできないかと、カカオマスからカカオバターを抽出するための油圧式圧搾機を開発。これによりチョコレートが産業として大きく発展することとなりました。カカオマスは砕いてパウダーにできることと、抽出されたカカオバターは後にチョコレートバーの生まれるきっかけになったのです。

②固形チョコレートの発明‐ジョセフ・フライ

 1847年、イギリスのジョセフ・フライはチョコレートを固めることに成功。当時、ココアパウダーと砂糖をお湯で溶いて飲むことが主流であったチョコレートですが、お湯の代わりにカカオバターを加えることで、溶けたり固まったりすることを発見しました。これにより、チョコレートバーとして売り出され、型に流し込んで色々な形に固められたり、商品化が進みました。

③ミルクチョコレートの発明‐ダニエル・ピーター

 1875年、スイスのダニエル・ピーターとドイツ移民であるアンリ・ネスレの共同開発により、ミルクチョコレートが生まれます。蝋燭職人だったダニエル・ピーターは、オイルランプの普及により廃業。それを期に妻であるファニーの父親の工場で勉強を始めます。ファニーの父は、スイスでチョコレート革命といえる大産業に成功したフランソワ・ルイ・カイエ。世界初のチョコレート工場を建てた人物でした。

 一方、友人であり薬剤師のアンリは、牛乳から水分を抜きとり育児用の粉ミルクを開発していました。新しい商品開発のため、ピーターはアンリに相談し、失敗を重ねた後に、ミルクチョコレートを生み出しました。

④コンチングの発明‐ルドルフ・リンツ

 1879年には同じくスイスのルドルフ・リンツは口溶けのよいマイルドなコンチングを成功させました。カカオマスに砂糖や粉乳を細かく磨り合わせて練り混ぜる作業をコンチングと言います。ある日機械のスイッチを切り忘れ、帰ってしまいました。数日後、職場に戻って来たルドルフはスイッチを切り忘れていたことと同時にあまりに艶やかで美しいコンチングに驚き、それをヒントに滑らかな口溶けのチョコレートを開発したのでした。

 チョコレートの可能性に惹かれた方々の発見や努力によって、現在では数え切れないほどのチョコレート商品が生まれました。 製法も実に様々ですので、パティシエは新しい商品を作る際には必ず一度はチョコレートを手に取ります。それほど製菓において欠かせない食材と言えますし、どのチョコレートをどのように使うか選び、考えるのはとても楽しいのです。

テンパリングについて

テンパリングの写真

 現代ではパティシエやショコラティエが最終的な加工をし、商品として店頭に並べています。ここではテンパリングという作業が必要となります。

 チョコレートは、溶かしてからただ冷やして固めるだけでは、表面にブルームといわれる油脂や砂糖が浮き出たり、形を保てないほど柔らかくなったままになってしまいます。テンパリングは、カカオバターのI型~VI型まである結晶を、融点が33℃のV型と言われる結晶に揃える作業です。方法はいくつかありますが、基本的には溶解温度、下降温度、調整温度を経て行われます。一般的なダークチョコレートは50℃~55℃で溶かし、27℃~29℃まで下げます。そしてもう一度31℃まで温めてから加工すると、綺麗に固まってくれます。

 私はこれをなかなか理解できず、失敗の連続でしたので、チョコレートは苦手。という意識が根付いてしまっていました。しかし理解し、一度成功すると触りたくて仕方ないまでに魅了されます。そして何より、この温度帯を発見されたことが不思議で仕方なくなるのです。何故ならテンパリングとは金属加工の技術であり、チョコレート以外の食品には使用されない工程です。とても面白いですね。

さいごに

チョコレートのオブジェ/写真提供:櫻井正さん(SUGAR SPOT.)
写真提供:櫻井 正(SUGAR SPOT.

 このようにカカオの可能性に魅せられた人々の努力と発見が運命に導かれるようにチョコレートを誕生させました。そして今尚、可能性を秘めるチョコレートは子供から大人までを魅了し続けています。

  近年ではブロンドチョコレートやルビーチョコレートなど新たに生まれ、コーヒーと同じく、産地や原料本来の味を楽しむべくカカオからチョコレートになるまでを一貫してその場で行うビーントゥーバーなども注目され、まだまだたくさんの可能性を秘め進化を続ける、まさに神々の力が宿った食べ物だと言えるのではないでしょうか。


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プロフィール

学校法人 東京観光専門学校  カフェサービス学科 学科長 山本 佳成さん

学校法人 東京観光専門学校

カフェサービス学科 学科長 山本 佳成

【経歴】

桜美林大学国際学部卒業。フランス企業パティスリー部門にてキャリアをスタート。都内パティスリー勤務を経て、レコールバンタンにて製菓アシスタント講師、八王子うかい亭パティシエを勤め、現在は学校法人東京観光学校のカフェサービス学科にて、製菓、カフェフード、デザートの実習をはじめ、メニュー開発や店舗経営などの教育を行う。

【住所】

〒160-0843 東京都新宿区市谷田町3-21

【TEL/FAX】

03-3235-5713 / 03-3235-8226

【HP】

http://www.tit.ac.jp/

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